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2009/4/12 新国立 ワルキューレ

2009年4月12日 新国立劇場
ワーグナー ニーベルングの指環より第一夜 ワルキューレ
指揮 ダン・エッティンガー
演出 キース・ウォーナー
ユッカ・ラッシライネン(ヴォータン)、エレナ・ツィトコーワ(フリッカ)、エンドリック・ヴォトリッヒ(ジークムント)、マルティナ・セラフィン(ジークリンデ)、クルト・リドル(フンディング)、ユディット・ネーメット(ブリュンヒルデ)他


7年前のプレミエを観たときは本当にぶったまげた。
第2幕、幼児用の木馬に乗って登場したブリュンヒルデ
第3幕、ワルハラ病院救急病棟のワルキューレ看護婦たち。
あっけにとられて口がぽっかーんと開いたものだった。

 今回、さすがに二度目とあって驚かなかったが、スリリングな展開にあいかわらずハラハラドキドキだ。

 冒頭、舞台前方に刺さっているノートゥンクをヴォータンが抜き去り、代わりに槍を掲げて突き刺す仕草をすると、フンディングの館の天井からノートゥンクが入った槍が降りてくる。形は矢印。すなわちヴォータンの意志。ヴォータンが目指す方向、ベクトルである。嵐の音楽の中、観衆を一気に物語に引きずり込む、まこと見事としか言いようがない演出手法だ。

 実を言うと、このワルキューレ、どうも腑に落ちない場面がある。

 第2幕、ヴォータンとフリッカの言い争いの場面だ。
 どうしてヴォータンは妻に言い負かされてしまうのだろう?事は神々の存亡に関わるのだ。お家の一大事だ。フリッカとて他人事ではない。ジークムントこそが神々の救世主になるかもしれないのだぞ!

 だったらさあ、ヴォータンさん、もう少し弁解の仕方があるだろうよ。簡単にフリッカに負けてしまうこの場面で、「結局、世の旦那は奥さんにかなわないってわけね。」なんて下世話な結論は、壮大なスペクタクル神話にふさわしくないではないか。

 ところが、今回の演出は、ちゃんとこの問題をクリア提示している。
 私は次のように読み取った。(あくまで私にはそのように見えた。)

 フリッカは夫ヴォータンを今でも愛している。そして、妻そっちのけで世界征服、権力闘争に明け暮れる夫の心をもう一度自分に向けさせたいと考えている。だから妻の愛と誇りにかけて命がけで訴えるのだ。「お願い、今でも愛しているあなたの妻の声を聞いて!」

 その魂の訴えがヴォータンの心に届き、心を動かした。その結果、ヴォータンは彼女の愛に応えることにしたのだ。簡単に愛を断念したアルベリッヒとは違うのだ。たとえこのままでは神々は滅亡すると分かっていても。

 ガッツポーズで立ち去っていくフリッカの姿は、夫の愛を取り戻すことが出来た渾身の喜びの表現だ。
 その一方でヴォータンは覚悟を決めた。すべては終わった、と。「Das Ende!」 演出的にも音楽的にも第2幕の頂点をなす叫び(嘆き)だ。

 主役の歌手陣、特にブリュンヒルデジークリンデが素晴らしく、第3幕での二人のジークフリートと名付ける場面のやりとりは感動的だった。

 また、オケの東フィルも大健闘(予想外(笑))。これなら「N響に替えろ」なんて言われないだろう。

 残りの半分、来年を楽しみに待つとしよう。