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解読!新国立のラインゴールド

2009年3月15日 新国立劇場
ワーグナー 楽劇ニーベルングの指環よりラインの黄金
指揮 ダン・エッティンガー
演出 キース・ウォーナー
ユハ・ラッシライネン(ヴォータン)、トーマス・スンネガルド(ローゲ)、長谷川顕(ファーゾルト)、妻屋秀和(ファフナー)、ユルゲン・リン(アルベリッヒ)、高橋淳(ミーメ)、エレナ・ツィトコーワ(フリッカ)他
 

 Absolutely splendid!!(実に素晴らしい!!)

 8年ぶりの再演であったが、当時から全く色褪せることなく、依然として最先端のリングであることを再確認。うれしくて頬が緩み、思わずニヤけながら鑑賞した。

 しかし、初めて観た方、古典的演出を好む方にとっては、ひょっとして難解だったかも??
 大丈夫。気にすることはない。分からなくたっていい。絶対的な正解などないのだから。ただし、演出家は観客に対してこれでもかとばかり過剰なまでに仕掛けを与え、それについて自分なりに考えることを要求していることは間違いない。

 ということで、私なりに気が付いたこと、考えたこと、読み取れたことなどを以下に書いてみようと思う。あくまで私の解釈であり、「これが正解だ」などと偉そうに主張するつもりは毛頭ない。


(1)映画、劇場、スクリーンについて
・全ては映画の中の出来事、映像が作り出す虚構あるいは作り物だというメッセージ。
・映像情報が持ち合わせる「記録」としての価値、役割、重要性。
・演出家が仕掛ける様々な問いやメッセージを観客に伝達するための媒体として、最もメッセージ性が高く、かつ多くの情報量を含有することが出来る記録映像=映画を作り、スクリーン上に表現することとした。

(2)ジグソーパズル
 ジグソーパズルは全てのピースを当てはめ込んで完成する。完成した成果品は作品として調和が取れているが、一つでもピースが足りなければそれは不完全であり調和が整わなくなる。ピース(指環)の強奪によって世界の調和が一気に崩れ出すという、その象徴。

(3)数式
 世界を制覇できるという指環の作り方。愛を断念したことによって、アルベリッヒはその解を得るための計算式を手に入れることが出来た。

(4)隠れ兜と舞台装置
 隠れ兜の形状について気が付いただろうか?兜のメガネの形。右目と左目で色が分かれていた。黄色と黒。グラスはいびつな四角形・・・。
 ここで舞台装置を見てみよう。
 天上の神々の場面は、黒い装置にスクリーン型の四角形、続いてニーベルハイムの場面は黄色の舞台装置に同じくスクリーン型の四角形。お分かりだろうか?ヴォータンとローゲがニーベルハイムに移動する際に舞台装置が真横に動くと、ちょうど中間地点で巨大な兜のメガネが現れた!

(5)アルベリッヒが連れていた女性
 アルベリッヒは愛は断念したが、女など指環のパワーが生み出す金でいくらでも買える。愛は無くとも快楽は得られるわけだ。そうやってこの女性からハーゲンが生まれる。

(6)アルベリッヒの去勢
 愛の無い快楽を得られるのは指環があってこそ。その指環をヴォータンに強奪された以上、もはやその手だてはない。愛も断念させられ、その上に更に快楽を得られる手段さえも奪われては、もはや性欲を生み出す男性のアレは必要ない。そうやって刀で自ら去勢する行動に打って出た。

(7)フライアの黄金のリンゴ
 今回のラインゴールドの演出上、最も重要なのがこのリンゴだ。神々の繁栄のためにはリンゴが不可欠。リンゴを食べないとどんなことになってしまうか-息も絶え絶え、最終的には死に絶える。つまりは一番大切なものなのだ。ファーフナーはこのことにいち早く気が付いた。だからフライアを奪おうとする。指環を巡る争いよりも前に、神々と巨人族のリンゴを巡る戦いが勃発している。

(8)フライアの心変わり
なぜフライアは自分をさらおうとしている敵のファーゾルトとの別れに名残を惜しもうとしたのか?
 なぜファーゾルトの死に悲しみの表情を見せたのか?
 なぜ誇らしげなワルハラ城への入場の際に一人ぽつんとつまらなそうな顔をしながら立ちすくんでいるのか?

 フライアは気が付いたのだ。
 一族にとって重要なのは自分ではなくリンゴだったのだ、と。
 自分を助けようとしているのは、単にリンゴが大切なだけだったからだ。フライアが人質から解放されたのに、姉兄弟達はリンゴにかじり付くのに夢中でフライアのことなど眼中になかった。

 それに対して、唯一自分のことを「好きだ」と公言してくれたのがファーゾルトだった。そんなファーゾルトの愛に彼女は応えようとした。ファーゾルトが殺された今、喜んで一族と一緒にワルハラ城に入城するすることなどできない。

 この「リンゴ」と「フライア」の扱いが今回のラインゴールド演出上の一番のポイントだと私は思う。



 ちょっと長文になってしまいました。この辺で終わりにします。